投資の優遇策
- 優遇は3つの層国の制度(投資法・法人税法)、経済区の制度(ギソン経済区など)、タインホア省独自の支援の3つがあります。
- 「日系だから」の優遇はない日系企業だけを対象にした特別な優遇制度は、今回の調査では確認できませんでした。国と省の制度は、外資企業に共通です。日系企業には、日越EPAなどの関税の優遇が使えます。
- 2025年10月に法人税法が変わった新しい法人税法(2025年10月1日施行)では、優遇の基準が「どこに投資するか」から「何に投資するか」に移ったとされます。工業団地に入るだけでは、優遇が受けられない可能性があります。
国の制度
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基本の法人税率 | 20%(法人税法 67/2025/QH15、2025年10月1日施行) |
| 優遇税率10%(15年間) | ハイテクなどの新規投資、ハイテクパーク・デジタル技術パーク・経済区での新規投資、社会経済条件が極めて困難な地域での新規投資 |
| 優遇税率17%(10年間) | 裾野産業、自動車製造などの新規投資 |
| 免税・減税 | 優遇税率の対象は、4年間の免税と、その後9年間の50%減税。特定の製造分野の新規投資は、2年間の免税と、その後4年間の50%減税。期間は、収益が出た最初の年から数える(最初の3年間に課税所得がなければ、4年目から) |
| 工業団地の扱い | 新法の優遇の対象に、「工業団地への立地」は含まれないとされる(ハイテクパーク、デジタル技術パーク、経済区は含まれる)。2025年9月30日以前に投資登録証明書(IRC)を取得し、優遇を受けているプロジェクトは、元の期限まで従来の優遇を続けられるとされる |
| 輸入関税 | 固定資産をつくるための機械・設備の輸入関税が免除される(輸出入税法 107/2016/QH13) |
| 土地 | 土地賃料・土地使用料の減免がある(投資法 61/2020/QH14、政令 31/2021/ND-CP) |
| グローバル・ミニマム課税 | 年間収入が7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループのメンバー企業は、優遇税率を受けても、実効税率が15%まで引き上げられる場合がある |
| 関税協定 | 日越EPA、CPTPPなどの特恵関税を使える |
出典:法人税法 67/2025/QH15(英訳)の第13条・第14条、JETRO「外資に関する奨励」(2025年9月12日更新)、解説記事(2026年3月21日)、EY(2024年4月17日)。条文の英訳の要約を含み、細かい適用条件は確認していません。
「特別優遇の事業」とは(詳細)
ベトナムの投資法(61/2020/QH14)は、優遇の対象を、「投資優遇分野」と「特別優遇分野(ngành, nghề đặc biệt ưu đãi đầu tư)」に分けています。特別優遇分野は、国が特に誘致したい分野で、優遇が最も手厚くなります。
1. 何が対象か
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 特別優遇分野の例 | 高度技術の応用、ハイテク製品の製造、ソフトウェア・デジタルコンテンツ・情報技術の重要製品、サイバーセキュリティ製品、再生可能エネルギー・クリーンエネルギーの製造、新素材・複合材料の製造、重要な機械製品の製造など(政令31/2021/ND-CPの別表の整理にもとづく。一覧の原文は未確認) |
| 投資優遇分野の例 | 自動車・自動車部品、電子部品・半導体、産業用の機械、エネルギー効率の高い製品、鋼材、付加価値の高い製品、研究開発など |
| 投資規模による特別優遇 | 投資額が30兆ドン以上で、登録から3年以内に10兆ドン以上を実行する、特別優遇分野の事業。さらに手厚い優遇の対象になる |
出典:政令31/2021/ND-CPの分野・地域の整理(Expertis)、投資法2020の第15条・第16条(VCCI、ハノイ市の法令解説)。分野の一覧と区分は、法令改正で変わる場合があります。2025年に投資法が改正されており(解説)、最新の一覧は確認していません。
2. 土地賃料の免除(政令103/2024/ND-CP、第39条)
土地賃料の免除は、「建設期間」と「その後の期間」の組み合わせです。建設期間は、土地を借りる決定から最大3年で、免除されます。その後の免除は、分野と地域で決まります。
| 事業の場所・分野 | 建設期間の後の免除 |
|---|---|
| 優遇の対象でない地域・分野 | 通常は、なし(建設期間のみ免除) |
| 投資優遇分野の事業 | 3年 |
| 社会経済条件が困難な地域 | 7年 |
| 困難な地域で、優遇分野の事業 | 15年 |
| 特別優遇分野を、特に困難な地域に投資 | 全期間(借りている間ずっと) |
| 経済区内の事業 | 優遇の対象でない事業は11〜15年、優遇分野は15〜19年、特別優遇分野は全期間 |
出典:クアンチ省の投資案内(2025年10月2日)による政令103/2024/ND-CP第39条の整理。同じ記事の中の表記にあいまいな部分があり(「11年」の対象の書き方など)、条文の原文は確認していません。2025年の政令291/2025/ND-CPで改正されたとの情報もありますが、内容は確認していません。
3. タインホア省で、特別優遇の事業が受けられる可能性
- ギソン経済区は、特別優遇分野の事業なら、土地賃料が全期間免除になる区分です。タインホア省の発表(2026年3月)の「ギソン経済区は操業開始後11〜19年免除」は、特別優遇分野ではない通常の事業の例とみられます。
- タインホア省は、全体が「特に困難な地域」ではありません。山間部の一部は困難な地域とされますが、タインホア市周辺や沿岸部(ギソン経済区を除く)は、通常は優遇地域の扱いではないと考えられます。個別の住所ごとの区分は、確認していません。
- 日系の製造業の多くは、「投資優遇分野」(自動車部品、電子部品、機械など)に当たる可能性があります。「特別優遇分野」に当たるのは、高度技術、再生可能エネルギーなど、範囲が限られます。
- 法人税の優遇は、新しい法人税法の「10%の税率、15年間」の対象と重なります。上の「国の制度」の表をご覧ください。
タインホア省の制度
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 土地賃料 | 特別優遇の事業は、賃貸期間の全体で免除。通常の事業は、建設期間(最大3年)は免除され、その後も3年から15年免除される。ギソン経済区は、建設期間に最大3年、操業開始後に11〜19年免除される |
| 法人税(ギソン経済区) | 税率10%を15年間。4年間の免税と、その後9年間の50%減税 |
| 法人税(工業団地) | 標準的な工業団地で、2年間の免税と、その後4年間の50%減税とする報道がある。旧制度にもとづく可能性があり、新法との関係は未確認 |
| 輸入関税 | 機械・設備、国内でつくれない原材料の輸入関税が免除される |
| インフラの支援 | 産業クラスターのインフラ整備への支援は最大200億ドン、山間部の工業生産プロジェクトへの支援は最大20億ドン/件とする報道がある |
| 港湾・物流の支援 | コンテナ船の運航や、輸出入企業への支援金がある(金額は報道による。詳細は要確認) |
| 優先して誘致する事業 | 2026〜2030年に、173プロジェクト・570兆ドン(約240億ドル)。工業加工製造、インフラ・都市開発、エネルギー・環境、観光・サービス、科学技術、文化・スポーツ・医療 |
出典:VnEconomy(2026年3月14日)、VietNamNet(2026年3月27日)。省の制度は、報道の要約で、根拠となる決議の番号は確認できていません。
人件費の比較:タインホア省・ハノイ周辺・ホーチミン市
タインホア省は、ハノイ周辺(北部)やホーチミン市より、最低賃金が低い地域です。ただし、タインホア省には、職種別の賃金の調査がありません。そのため、ハノイ周辺とホーチミン市はJETROの調査、タインホア省は求人などで確認できた例を、並べています。
法定の最低賃金(月額、2026年1月〜)
| 地域 | 月額 | 対象の例 | 地域Iとの比較 | 2027年1月の案 |
|---|---|---|---|---|
| 地域I | 531万ドン | ハノイ・ホーチミン市の中心部など | 100% | 570万ドン |
| 地域II | 473万ドン | タインホア市(Hạc Thành区など)、ギソン、サムソンなど | 約89% | 508万ドン |
| 地域III | 414万ドン | (タインホア省には該当なし) | 約78% | 445万ドン |
| 地域IV | 370万ドン | タインホア省の、そのほかの地域 | 約70% | 404万ドン |
出典:政令 293/2025/ND-CP(タインホア省の区分)、JETRO(2026年8月3日)。2027年1月は、全国平均7.8%の引き上げ案で、首相の承認を経て公布される見込み。タインホア省の区分は、Hạc Thành区、Quảng Phú区、Đông Tiến区、Sầm Sơn区、Nghi Sơn区などが地域II、それ以外は地域IVと報じられています。
職種別の月額(基本給)
| 職種 | ハノイ周辺(北部) | ホーチミン市(南部) | タインホア省(確認できた例) |
|---|---|---|---|
| ワーカー 製造業・一般工職、経験3年程度 |
674万ドン (278ドル) |
798万ドン (329ドル) |
日系の縫製工場の初任(等級1)の基本給は495万ドン。手当を含む総収入は650万〜2,000万ドン。FDI企業の労働者の平均収入は615万ドン(2021年) |
| エンジニア 経験5年程度の中堅 |
1,260万ドン (520ドル) |
1,501万ドン (619ドル) |
確認できたデータなし(全国のウェブ求人では、機械系エンジニアの平均が900万〜1,800万ドンとされる) |
| 中間管理職 製造業・課長クラス、経験10年程度 |
2,717万ドン (1,121ドル) |
2,945万ドン (1,215ドル) |
製造業の生産管理の求人は、1,500万〜2,000万ドン。日本語通訳を兼ねる生産管理の求人は、750万ドンから |
| スタッフ(一般職) 非製造業、経験3年程度 |
1,932万ドン (797ドル) |
1,840万ドン (759ドル) |
日系縫製の受注管理(マーチャンダイザー)の求人は、1,100万〜1,300万ドン |
| マネージャー 非製造業・課長クラス、経験10年程度 |
4,093万ドン (1,688ドル) |
3,726万ドン (1,537ドル) |
確認できたデータなし |
ハノイ周辺とホーチミン市の出典:JETRO「2024年度 アジア大洋州・日本投資関連コスト比較調査」(2025年3月)。2024年8〜9月の日系企業への調査で、北部の回答をハノイの値として使っています。米ドルは、同年8月の平均レートで換算されています。タインホア省の出典:Thương hiệu & Công luận(2021年5月26日)、求人(Lễ Môn工業団地)、DigiSource、求人情報サイトの検索結果。求人の掲載日は、確認できていません。
年間の企業負担額(参考)
| 職種 | ハノイ周辺(北部) | ホーチミン市(南部) |
|---|---|---|
| ワーカー | 4,601ドル | 5,485ドル |
| エンジニア | 8,314ドル | 10,070ドル |
| 中間管理職(製造業) | 17,893ドル | 19,730ドル |
基本給のほか、諸手当、社会保障、残業代、賞与などを含む1年間の額です。賞与は、基本給の平均1.6か月分とされています。同じ調査にもとづきます。
読み取れること
- 最低賃金は、タインホア市(地域II)で、ハノイ・ホーチミン市の中心部(地域I)の約89%、そのほかの地域(地域IV)では約70%です。
- ワーカーの基本給は、日系縫製の初任(495万ドン)が、ハノイ周辺の経験3年程度(674万ドン)より、約27%低い数字です。ただし、経験年数が違うため、単純には比べられません。
- ホーチミン市は、ハノイ周辺より、ワーカーで約18%、エンジニアで約19%高い水準です。
- 管理職やエンジニアは、タインホア省の調査データがなく、確認できた求人も少数です。日本語ができる人材の採用では、賃金が上がる傾向があるため、現地の人材会社での確認が必要です。
- 最低賃金は、2027年1月に、全国平均で7.8%引き上げられる見込みです。